徒然なる儘に ・・・ ④

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(8がけ社会:8)突破への胎動 みんなで、楽しんで、乗り越える 2024年1月14日 5時00分

 

 高齢化に人手不足が重なれば、一人一人にのしかかる負担は大きくなる。前向きな未来を描くため、危機を突破する鍵はあるのか。

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 高齢化社会の対応策として、国は75歳以上の高齢者が自ら死を選べる制度を施行した――。22年6月公開の映画「PLAN75」は、そんな日本の「未来」を描き世間をざわつかせた。

 公開から1年半が経ったいまも、SNSや映画批評サイトでは、劇中の制度に対する賛否が渦巻く。「こういう制度があればいいな」「やんわりとした集団自殺的な空気が漂っていて絶望した」

 切迫感を伴って受け止められた理由を立命館大の大谷いづみ教授(生命倫理学)は「高齢者に限らず、全ての世代が『これは絵空事ではない』と感じるから」と語る。

 下肢に障害を持ち、社会の差別や偏見と向き合ってきた大谷さんは、高校教師をしていた約30年前、生徒の一人が授業で「老人や重度障害者が自ら尊厳死を選ぶように導く社会が進化した社会だ」との意見を提出したことに衝撃を受けた。

 PLAN75を見て、大谷さんは当時の生徒を思い出した。危機感を共有する早川千絵監督と交流を深め、22年末には早川監督を大学に招いて、映画上映と合わせた対話集会を開いた。

 社会に広まる「自己責任論」への憤りから映画の制作を始めたと語った早川監督に対し、参加者は「悪気なく加担していく怖さがある」「普遍的な話であると同時に極めて日本的な部分もある」などと感想を語り合った。

 大谷さんは学生たちが「使い捨てられる」ことに敏感になっていると感じる。人口減少や経済の停滞に今後の負担増は避けられないと察し、暗い将来を過度に背負い込んでいるように見える。

 人は生きているだけで尊い。そんな当たり前のことに気づく余裕を失っているようにも感じる。

 PLAN75は、社会にとっての有用性や生産性だけで要不要を判断する日本の空気感を表現した。働き手が足りなくなる「8がけ社会」は、いま以上に生産性や効率が求められるかもしれない。そうした物差しだけで人や命の要否を判断する、暗澹(あんたん)たる未来はどうすれば避けられるのか。大谷さんは語る。「簡単な処方箋(せん)はない。考え続けること、『おかしい』と声を上げることをあきらめてはならない」(中山直樹)

(1面から続く)

 

 ■ばあちゃんの働く意欲、付加価値に

 高齢者を社会の「負担」と捉えれば、現役世代が減る「8がけ社会」が重苦しくなるのは避けられない。そうした未来は必然なのか。

 福岡市から車で1時間ほど。筑後川上流にあるうきは市の山あいを進むと、元々保育園だった建物からにぎやかな声が聞こえてきた。

 「最近、寒くなってきたねえ」「今日は昼過ぎに帰って畑仕事だ」。出勤した社員たちが雑談を交わしつつ、今日の仕事内容を相談していた。

 社員は約20人。その大半が75歳以上の女性、通称「ばあちゃん」だ。そんな株式会社「うきはの宝」の調理場には、ばあちゃんの知恵が詰まった商品が並ぶ。スイーツや調味料、日持ちする総菜など手作りの商品を次々と開発し、オンライン販売の売れ行きは好調だ。特に30~40代の女性に支持されている。

 ばあちゃんは自分たちが希望するシフトで勤務に入り、週1~2回、数時間ずつ働く。

 近所で採れた柿の皮を、まっすぐ伸びた姿勢で手際よくむいていく。まるで80代とは思えない社員の一人、内藤ミヤ子さん(87)が「家にいても旦那と2人で刺激がない」と打ち明けると周囲は大笑い。「働くようになって健康になった。病院にも行っていないしサプリも飲んどらん」と胸を張った。

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 雇用に加え、高齢者の生きがいも作ってビジネスにできれば、地域全体は元気になる。同社を創業した大熊充さん(43)は「世代間対立や老害という言葉がとても嫌い」で、会社を作った動機はそんな「固定観念」への反発だったという。

 20代の頃、バイク事故で長期間入院した。一緒に入院していたばあちゃんたちは、うるさいほどおせっかいだった。でもそれが、落ち込む自分を元気づけてくれた。

 まるでお荷物のように言われる高齢者のエネルギーを知り、「あの力をビジネスにつなげたい」と決意した。

 まずは、ばあちゃんにヒアリングすると、週数回働ければ年金に加えて月2万~3万円の収入が得られ、それだけで生活はグッと楽になると知った。

 長年の知恵や技術、何よりその意欲を付加価値にして、魅力的な商品につなげる。「ボランティアややりがい搾取とは違う。死ぬまで働けと言うわけでもない。仕事を通じて、みんなが幸せになれるシステムを作りたい」

 市内で軌道に乗り始めたビジネスを全国展開するのが次の目標だ。高齢者の力を引き出し、つなげることができれば、誰しも前向きな気持ちになれる。そんな取り組みが各地に広がれば、高齢者への社会の目線も少しずつ変わるかもしれない。

 高齢者は、現役世代が背負わなければならない重荷なのか。ばあちゃんが作ったスイーツをかじった大熊さんは首を振った。「そんな発想は全く違う。支えられる側ではなく一緒にこの危機を乗り越える仲間なんです」(中山直樹)

 

 ■ゲームで遊ぶ=電柱の巡視・点検

 「8がけ社会」では、暮らしの足元を支えるサービスさえままならなくなる可能性がある。管理や補修を担う人がいなければ、道路や水道、電気やガス、鉄道といったインフラは立ちゆかなくなる。突破する鍵はあるのか。

 昨年12月、週末の浜松市スマホ片手に電柱を撮り歩く人の姿があった。名古屋市から来た40代のtetsukoさんは千葉県の女性と合流し、暗くなる前に100枚あまりを撮り続けた。雨がぱらつく天気にも「楽しくて時間を忘れた」と笑顔を見せた。

 2人を駆り立てていたのは、アプリゲーム「TEKKON」だ。「ポケモンGO」のようにスマホの位置情報を使って電柱を撮影。写真を投稿するとポイントがもらえ、お金としても使える。

 集まった写真は、電柱などを管理するインフラ企業が買い取り、修繕の順位づけなどに活用する。参加者はゲームの中で達成感を得られ、企業側はインフラ補修の第一歩となる巡視・点検を担ってもらえる。

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 ゲームで遊びながら、インフラを守る。そんな仕組みを考えた運営法人ホール・アース・ファウンデーションシンガポール)CEOの加藤崇さん(45)は「誰かの仕事にみんなが参加し、より多くの目に触れることで、その仕事を民主化、分割化できる」。

 介護やごみ収集、インフラの維持。暮らしを支えるエッセンシャルワークの多くは単調になりがちで、負担も少なくない。そうした仕事の一部にみんなが参加でき、それが苦にならないような仕組みをテクノロジーによって社会に実装する必要がある、と加藤さんはいう。

 鍵は「楽しいこと」。ゲームを入り口に幅広い人を巻き込み、ビジネスとしても成立させるプラットフォームを作ることが、今後深刻化する人手不足の突破口となると、リクルートワークス研究所の古屋星斗主任研究員(37)はみる。「点検などの業務を行う電気工事士、水道技術者、鉄道の保線作業員、自動車整備士などは全く人手が足りていない。TEKKONにはそうした仕事を変える可能性がある」。目視点検の仕事を切り出すことで、人手を賄い合う発想だ。

 2040年に向けて現役世代が急減し、85歳以上の高齢者は急増していく。担い手を欠く生活維持サービスが止まれば、暮らしは途端に行き詰まる。

 苦境への解決策について、古屋さんは「機械に置き換えられる仕事は徹底して置き換え、生活維持サービスの専門職はその人にしかできない仕事に徹する」と語る。

 加藤さんは言う。「投稿した写真がきっかけで斜めになっていた電柱が直ったと聞けば、『楽しいから』『お金を稼げるから』と始めた人の中に、『参加すれば社会は動く』と実感できる、ある種の自己効力感が芽生える」。そんな手応えはいつか、政治や社会を変える力につながると期待する。鈴木淑子

 

 ■社会を支え、参加する未来へ

 働き手が減る「8がけ社会」は、不安が連鎖する社会でもある。将来の主役世代は「負担が重くなる」ことを、高齢期に向かう今の現役世代は「支え手が減る」ことを恐れる。この不安とどう向き合うか。

 不安の正体はお金の不足ではなく「働く人」の不足にある。著書「お金のむこうに人がいる」でそう明言した外資系証券元トレーダーの田内学さん(45)は「働く人がいなければお金の力は消える」とした上で、「社会全体で少子化を食い止め、少ない人数でも社会を運営できるように生産性を上げなければならない」と指摘する。

 不足するなら大切に。そんな観点から「労働力希少社会」との呼称を提唱するのは権丈(けんじょう)英子・亜細亜大教授(労働経済学)だ。限りある労働力を大事に生かし、エッセンシャルワーカーを社会全体で支えていく。

 希少な労働力を増やす必要もある。男性正社員が長時間働く「分業型」から、高齢者や女性を含め多くの人が短時間でも働く「参加型」へ移行しなければならない。

 未来にどんなバトンを引き継ぐのか。社会活動家の湯浅誠さん()は「よい祖先になるために、今をどう生きればいいのか」を問い、未来につながる今の問題を自分事とすべきだと説く。

 取材を通じて見えてきたのは、社会を支える層を広げ、育て、自らも長く参加すること。8がけ社会であっても、未来を暗く閉ざさないためにできることはある。(浜田陽太郎)

 

 ◇新年連載は終わります。企画のグラフィックは花岡紗季が担当しました。近くインタビュー編を始めます。