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<正論>ガザ危機で問われる日本外交 東京外国語大学教授・篠田英朗 2024/2/12 08:00

篠田英朗氏

中東情勢が混迷を極めている。イスラエルイスラム原理主義組織ハマスの戦闘が続くパレスチナ自治区ガザの危機は、収束の気配がない。むしろレバノン、イエメン、イラン周辺などに、戦火が拡大し始めている。日本外交のあり方も問われている。

従来の構図と異なる

注意したいのは、現在のガザ危機が、従来のパレスチナ問題への捉え方だけでは収まらない性格を持っていることだ。パレスチナ問題は、20世紀には「アラブの大義」の問題と認識されていた。アラブ諸国が当事者としての関心を持っているはずであると仮定され、戦火が拡大していく場合にも、アラブ諸国に飛び火していくのが当然だと思われていた。

しかし現在のガザ危機は、そのような伝統的な構図とは異なるパターンで進んでいる。同じパレスチナ人の地域でありながら、ガザとヨルダン川西岸は異なる運命をたどり始めている。地中海沿岸の諸国が大きくガザ情勢に関わっている。特にオスマン帝国の歴史を意識するトルコが、ガザへの強い関心を表明し、反イスラエル・反西欧の姿勢を明確にしている。

さらに米国を中心とする欧米諸国と明確に対立するイランが、アラブ圏ではないにもかかわらず、大きくガザ情勢に関わってきている。レバノンヒズボライスラエルを攻撃し、イランの支援を受けるイエメンのフーシ派やイラク国内のイラン革命防衛隊や民兵がガザ支援を名目にした軍事行動を起こし、米国の報復攻撃を誘発している。

国際司法裁判所(ICJ)でイスラエルのジェノサイド条約違反を訴えたのは、南アフリカ共和国であった。アパルトヘイト植民地主義からの脱却を標榜(ひょうぼう)する南アフリカとその他の新興国は、反ユダヤ主義ホロコーストの歴史に拘泥するイスラエルと欧米諸国と、歴史観や思想的立場において、鋭く対立する。

欧米諸国と非欧米諸国

ガザ危機の衝撃は、アラブ諸国の地域を越えて広がっている。民族間の対立を超えた思想戦が繰り広げられていると言える。反イスラエル陣営に通底しているのは、欧米主導の歴史観・国際秩序に対する反目の姿勢である。

イスラエルが昨年10月7日のハマスのテロ攻撃を「9・11」になぞらえたのは、「対テロ戦争」の構図を構築してイスラエルへの支援を確保するためだったと言える。欧米諸国の指導者層は、その構図に沿ってイスラエル支持を打ち出した。

しかし、多数の非欧米諸国にとって「対テロ戦争」とは、欧米諸国による非欧米世界における迷惑な軍事行動のことでしかない。欧米諸国が「対テロ戦争」の構図を強めると、むしろ非欧米諸国は猜疑(さいぎ)心を強めていく。

1月26日に、ICJが、南アフリカの訴えを認めて、イスラエルに対してジェノサイド的行為の停止を求めた暫定措置を命令すると、イスラエル政府は反発した。

軍事行動を止めないことを宣言しただけではない。

国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の職員で10月7日のハマスのテロ攻撃に関与した者がいるという糾弾を、あえて米国に対して訴えかけた。これによって主に米国を筆頭にする欧米諸国が、UNRWAへの資金提供を停止すると表明した。日本も週末の間に意思決定を行い、資金提供一時停止の声明を28日の日曜深夜に発出した。明確な証拠が公表されない中での動きであった。

法の支配推進する原則を

UNRWAは3万人の職員を擁し、ガザだけで1万3千人を雇用している。そのほとんどは現地のパレスチナ人である。占領地における政府行政機能を肩代わりしている機関だからだ。そのためUNRWAの活動停止は、ガザの住民にとっては、生活の根幹に関わる大きな意味がある。ICJは、イスラエルに対して、ガザ住民に対する人道支援を確保するように命令していた。それにもかかわらずUNRWAを活動停止に追い込むとすれば、イスラエルとその支援国の行動は、ICJの命令に真っ向から挑戦する構図となる。

日本政府は、そのような意図はない、と言うだろう。だが、全ての諸国が、UNRWAへの資金提供を停止したわけではない。だから欧米のイスラエルを支援する諸国がUNRWAへの資金提供を停止した動きに、日本が同調した、という流れになっていることは否定できない。

2021年のアフガニスタンからの無残な撤退の後、欧米諸国は、ロシアに侵略されたウクライナを大々的に支援して威信を回復しようとした。しかしガザ危機では、再びその道徳的立場を失墜させ始めている。

日本にとっては、同盟国・友好国との協調行動は大切だ。しかし、国際社会の法の支配を推進するという原則的立場を忘れてしまえば、長期的には大きな外交的失点となる。しっかりとした歴史観を持ち、原則を尊重する立場を忘れないことを心がけたい。(しのだ ひであき)