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首相の演説 被災者の声を前フリに「いまそれ言う?」の素・頓・狂 編集委員・高橋純子2024年2月17日 12時00分

記者コラム「多事奏論」 編集委員高橋純

 もう言い飽きたからこれで最後にしたいのだけれど、岸田文雄氏は首相としての資質を欠いている。私はそう結論している。ただ悔しいかな、首相という立場にのみ宿る力というものはある。

 災害で命を危うくし、仕事や財産を失って絶望の淵に立たされている人に、かろうじて一筋の「光」を見せられるのが、首相だ。現地に身を置く。言葉を尽くす。それが「光」となり得る。誤解を恐れず言えば、たったそれだけのこと、手間もかからず元手もいらずで出し惜しみする理由はない。ゆえに体制のいかんを問わず、世界の政治リーダーはふつう被災地に「駆けつける」。人々の心に届くメッセージを発しようと努める。

 しかし岸田氏はできない。やらない。

 能登半島地震の被災地を訪れたのは1月14日、発災から13日後である。

 1月30日の施政方針演説では、地震の被害状況が「体言止め」で並べ立てられた。「半島特有の道路事情による交通網の寸断。海底隆起や津波被害による海上輸送の途絶。水道、電気、通信などライフラインの甚大な損傷。地震に弱い木造家屋が散在する小さな集落の孤立。高齢者比率5割を超える地域社会への直撃」。それぞれに多くの命やくらしがかかっているのに、手際良くサッサと折り畳んでいく。冷にして淡。まあでも、肝心なのはこの後だ。被災された方にどう心を寄せ、どんな言葉をかけるか、首相としての真価が問われる。さて――。

 「なによりも素晴らしいのは、被災者の皆さん、また、支援に携わる皆さんの整然とした行動と『絆の力』です」

 「『能登はやさしや土までも』と言われる、外に優しく、内に強靱(きょうじん)な能登の皆さんの底力に深く敬意を表します」

 ニュースで見た、親元を離れて集団避難する中学3年生男子とその家族を思い出す。母親は泣きながら、男子は淡々と「頑張るしかない」と繰り返した。そんな、日々心身をすり減らし、痛みに涙を流している人たちに「絆」だの「強靱な底力」だのと称賛の拍手を送る。傲(ごう)かつ怠にして慢。人々の忍耐に対しては、深くこうべを垂れるべきではないか。「申し訳ない。復旧に全力を尽くすから、もうしばらく踏ん張って欲しい」と。

 演説で最も驚いたのは、避難所をようやく訪れた所感が「大変なご苦労の中、様々な不安を抱えておられるとの声をお聞きしました。また、被災者支援や復興に向けて貴重なお話を伺いました」のみと、紋切り型で極めて素っ気ないのに、「一方」とつなぐやいなや、「過去の災害対応に比べて、新しい取り組みがいくつも生まれており、強く印象付けられました」と冗舌になったことだ。

 「日本人の伝統的な強みである『絆の力』がデジタル、スタートアップ、新たな官民連携、資源循環など新しい要素と組み合わされてパワーアップし、日本の『新たな力』となっている」

 素にして頓(とん)にして狂(きょう)。被災者の声を、「新しい力」の「前フリ」に使っている。災害を「踏み台」にして前を向く。早過ぎる。ひど過ぎる。いくらなんでも。

 「いまそれ言う?」の岸田頓珍漢物語は、演説終盤「総裁任期中に改正を実現したい」と宣して大団円を迎える。日本国憲法25条「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を一日も早く被災地で回復させることに全力を注ぐべき首相が、憲法改正に前のめる。暗にして愚。もう言い飽きたけどやっぱり言う。首相としての資質を全く欠いている。編集委員高橋純子)