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「徴兵制」世界で復活の動き、市民は拒めるか 識者がみる「矛盾」 聞き手・真野啓太2024年3月14日 8時00分

 ミャンマー国軍が2月、「徴兵制」の実施を発表すると、対象となる人々が国外へ逃れようと隣国タイの大使館前に列を作りました。徴兵制は東西冷戦後、世界的に廃止の流れが強まりましたが、現在も60カ国ほどが採用し、復活を議論する国もあります。いまなぜ徴兵制なのか。兵役拒否を研究する京都女子大の市川ひろみ教授(国際関係論平和研究)に聞きました。

 ――徴兵制とはどんな制度でしょうか。

 国家が国民に対して兵役、すなわち軍隊の役務に強制的に従事させる制度です。「すべての成人男性」といった形で課されます。希望者で構成される場合は「志願制」と呼ばれます。

 ――ミャンマーで徴兵を逃れようとする動きが注目されました。

 戦闘任務に就けば、負傷や、死亡するおそれさえあります。徴兵を逃れようとする人は自分の命だけでなく、自分が死傷したら困窮してしまう近親者のことを考えて行動している場合もあるでしょう。

 ミャンマー軍は、市民が民主化運動の末に勝ち取った政権をクーデターで転覆させました。それゆえに国民に広く支持されているわけではなく、軍の任務に命をかけるほどの正当性も感じないでしょう。

徴兵逃れ、ロシアやウクライナでは

 ――徴兵を逃れるための出国は、ウクライナ侵攻(2022年2月)初期のロシアで増えて報道され、最近はウクライナでも深刻だと言われます。

 ウクライナでは、侵略から自分の国・家族・価値観を命がけで守ろうと考える人がいる一方、「人を殺すことはできない」といった信念から出国した人もいたことでしょう。兵士が命をかけているのに、軍や行政機関で汚職が続いているとされることも無関係とは思えません。

 ――国外に逃れるのはなぜですか。

 最も確実に兵役を回避できるからでしょう。しかし、「兵役拒否」が権利として認められていれば、状況は異なった可能性があります。

 ――兵役拒否の権利とはどんなものですか。

 個人の思想や信条に反して、軍隊に入ることや軍の特定の任務に就くことを強制されない権利です。良心的兵役拒否と呼ばれ、国連も人権として認めています。兵役を拒む権利が制度化されている国では、代わりの役務に就くことを求められます。

 ドイツは2011年から徴兵制を停止中ですが、1980年代後半以降には兵役を拒否して民間役務に就くことが肯定的に受け止められていました。

徴兵拒否で「友人いなくなる」

 ――拒否できる制度があれば個人は守られますか。

 徴兵制を持つ韓国やイスラエルにも兵役拒否制度がありますが、実際に徴兵を拒む人はごく少数です。非国民扱いされたり、就職が難しくなったりすることもあるようです。私が出会った両国の拒否者たちは「友人がいなくなることが悲しい」「親につらい思いをさせてしまう」と話していました。

 国内外で戦争が起きると、こうした風潮が強まります。フィンランドで兵役拒否運動をしている大学生は、ロシアがウクライナに侵攻して以降、友人に批判されることが増えたと話していました。

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 ――日本はどうだったでしょうか。

 日本では明治時代はじめの1873年から1945年の第2次世界大戦敗戦まで徴兵制がありました。日本の場合、思想信条を理由に兵役を拒む人はほとんどいませんでした。

 欧米では人権思想やキリスト教の教えを土台に、第1次大戦のころから兵役拒否の考え方が広がりましたが、日本には根付かず、兵役を拒む人を支援する組織もありませんでした。一方で、徴兵検査で不合格になるために、指を切り落としたり、しょうゆを飲んで高血圧を装ったりして徴兵を忌避する人は少なくありませんでした。

 ――徴兵制は時代とともに変化してきましたか。

 国民国家ができた19世紀、徴兵制は大きな役割を果たしました。それ以前の身分制社会では武器を持つことは特権でしたが、男性を対象とした徴兵で一人ひとりに武器が与えられることによって、「国を守る」という意識が根付いたと言われます。

 ただ2度の大戦を経て戦争や武力による威嚇が違法化されると、国家による戦争への国民動員は支持されにくくなる傾向が強まったと思います。冷戦終結後、大規模な軍隊は必要なくなり、欧州では、徴兵制廃止の動きが00年代ごろまでありました。

背後に「敵味方思考」の広がり

 ――最近はどうですか。

 10年代からは徴兵制の復活や拡大の議論が目立ちます。国ごとに事情は異なりますが、個人的には、周辺国を交渉できる相手としてではなく、力で抑え込むべき敵ととらえる、「敵味方思考」の強まりを感じます。「敵国」が軍拡しているから、自国も徴兵制を含めた軍拡を検討する。軍拡が連鎖する「安全保障のジレンマ」から抜け出せなくなっているようです。

 ――徴兵制の問題点は克服できるでしょうか。

 兵士の人権を守る視点が重要です。パレスチナ自治区ガザではイスラエル兵が市民の命を奪っていますが、兵士個人もまた、国家によって戦闘に従事させられ、心身にダメージを受けていることでしょう。軍隊は国民を守るためにあるのに、その国民の命を兵士として差し出させる点に、徴兵制の根本的な矛盾があります。

 同様の矛盾は志願制軍隊も抱えています。経済的な理由から「志願」している人も少なくないからです。このような状態は「貧困徴兵」や「経済的徴兵制」と呼ばれます。

 徴兵制は、導入している国だけの問題ではありません。たとえば冷戦期、米国の安全保障戦略に沿って日本には兵站(へいたん)基地としての役割が与えられた一方、韓国は戦闘基地とされ、徴兵制による軍隊が置かれ続けてきたということは確認しておきたいことです。

(今さら聞けない世界)(聞き手・真野啓太)

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 いちかわ・ひろみ 1964年生まれ。「個人」という視点から戦争を研究。専門は国際関係論・平和研究。著書に「兵役拒否の思想」、編著書に「国際関係論のアポリア」などがある。