徒然なる儘に ・・・ ④

心機一転、新たにブログ再開です💕 雑談を書くことも多いですけれど・・・(主に、電子ゲーム・ネタ💕)、残りは【新聞記事】にコメントを入れています💕

(天声人語)円安に悩む 2024年5月1日 5時00分

あなたは、いったい、ぼくが好きだったのでしょうか――。わが永遠の青春小説、田中英光の『オリンポスの果実の有名な巻尾の一文である。切ない初恋の物語は何度読んでも、胸をかきむしるような気持ちにさせる

オリンポスの果実のあらすじは?
 
あらすじ主人公の「ぼく」が、昔の思い出を振り返って語る青春の物語。 ロサンゼルス・オリンピックに、日本ボートのクルーとして出場が決まった「ぼく」は、船上でハイジャンプの選手である熊本秋子に一目惚れする。 しかし、写真を交換したところを先輩に見とがめられ、やがて選手の男女交際禁止が言い渡される。Nov 3, 2020
 
 

▼時は1932年のこと。ロサンゼルス五輪に向かう日本選手団を乗せた客船が、小説の舞台だ。主人公はボート選手で、あだ名は大きな坂本こと大坂(ダイハン)。陸上選手の女性に思いを寄せている。その不格好な恋は90年の歳月を越え、いまの時代も色あせず、瑞々(みずみず)しい

 

▼最近、再読すると、以前は気にならなかった部分に目がとまった。大坂が150ドル入りの財布を無くす場面だ。日本円に換算して、450円くらいとある。急激な円安が進む昨今だけに、思わず独りごちた。ううむ、当時は1ドルが3円だったか

 

▼もちろん、単純な比較はできない。通貨の価値も異なる。ものの本によれば、当時の東京で、大工の日当は2円。米国はといえば、大坂がハワイで買った赤いセーム革のノートは0・5ドルだった

 

 

▼貨幣とは、つくづく不思議なものである。時によって変化し、それが価値を生み出す。何をせずとも得する者がいれば、損をする人もいる。わが身をみれば、ああ、またもや円安による値上げかと、嘆息しきりの日々である

 

 

▼〈かにかくに杏(あんず)の味のほろ苦く、舌にのこる初恋のこと〉。大坂が記した一節を唱え、目を閉じる。あすをも分からぬ為替のことなどしばし忘れて、いつの世も変わらぬだろう何かを、思う。